伊豆の観光再生について
伊豆を訪れる観光客が減少しています。特に熱海市の低迷はニュースなどでも報道されています。観光低迷には伊豆固有の問題もありますが、旅行様式が大きく変化したことにも原因があるようです。観光再生のためカジノを作ろうとか、アウトレットモールを作ったらどうかなど、いろいろ意見がありますが、どうも少し違うような気がします。どうすれば伊豆は時代の変化に適応できるのでしょうか。観光地、伊豆のあり方について考えてみました。
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| 河津の桜 | 伊豆の秘境「ヒリゾ浜」 |
まず数字を見てみましょう。平成6年に伊豆を訪れた観光客は5,830万人(延人数)です。平成14年には4,428万人に減少しています。8年間で24%、1400万人も減っています。参考までに近隣の地区を調べてみると富士地区の観光客は平成6年が1,413万人。平成14年は2,197万人です。55%増えています。駿河地区は平成6年が1,150万人。平成14年は2,242万人です。なんと98%の増加です。どうやら伊豆だけが落ち込んでいるようです。
観光客のピークは平成3年頃でした。バブル景気の頃です。この前年に日本人の海外旅行者が1000万人を突破、10年後の平成13年には1600万人に達しています。10年間で600万人も増えたわけです。それでは海外旅行にお客を奪われたのかというと、必ずしもそうとは言い切れません。国内移動者の総数は格別減っていないのです。海外旅行者数が単純に600万人増えたと考えてもよさそうです。
ところで海外旅行について興味深いデータがあります。それは旅行費用の推移です。平成8年に海外旅行者が使った平均費用は一人あたり36.1万円でした。それが平成13年になると30.9万円に減っています。52,000円も安くなっているのです。航空料金の値下げなども一因ですが、ショッピングの費用が2.1万円も減少している点が注目されます。つまり旅行者は旅先でお金を使わなくなったのです。どうやら旅行者の消費傾向が変わったようです。
平成11年における宿泊料金の全国平均は11,010円でした。伊豆地区のデータはありませんが、静岡県観光統計データによると、この年の静岡県の平均宿泊料金は14,467円です。全国平均より30%高いわけです。静岡県の宿泊施設の65%は伊豆に集中しています。このことから伊豆の宿泊料金はかなり高めと考えてもよさそうです。
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| 一碧湖 | 小室山公園 |
旅行目的も観光型(見物型)がら行動・体験型に変化しました。旅行形態も団体旅行から家族旅行に変わっています。これを裏付けるデータがあります。名所旧跡など見物型施設の入場者数はこの10年間で20%近く減っていますが、行動型施設の入場者数は10%増加しています。施設を利用しない人、つまり統計に表れない旅行者も多いと思われますから、行動型旅行者は実質的に20%前後増えているのではないでしょうか。旅行の内容が大きく変化したのです。
都内から伊豆までは2〜3時間。これは宴会が目的の社員旅行などにはピッタリの距離です。バスで観光し、旅館に到着後、温泉に入ってから宴会です。飲み足りない人は街に出て二次会。翌日みやげを買って帰るというのがお定まりのコースです。旅行の費用も自分のふところから直接出すわけではありません。会社の補助もあります。社員旅行は浪費型の旅行でした。観光地にはたくさんお金が落ちました。観光の内容もあまり問題にされません。おみやげも”ありきたり”のモノでよかったのです。
時代が変わって旅行の70%を家族旅行が占めるようになりました。今度は主婦や子供が中心です。サイフを握るのは奥様方です。健全な慰安が求められます。主婦は無駄なお金など使いません。移動の手段も自家用車が60%、鉄道が30%という具合です。タクシーや飲み屋さんはヒマになりました。”ありきたり”のみやげなど誰も買いません。旅館に対しても繊細なサービスと美味い食事が求められます。旅行者が求める価値は多様化しています。
1回の旅行に使う費用は平成13年で約34,000円でした。平成9年と比べると4,000円減っています。日本観光協会のアンケート調査では、今後旅行費用を減らしたいと考えている人は46%。このうち単価を減らして回数を増やしたいと考える人が14.5%います。従来通りでかまわないという人も36%います。家族3〜4人で旅行する場合、一人当たりの予算は平均10,000前後となります。
旅行目的を見るとトップは周遊観光(26%)です。次いで帰省(18.9%)、海水浴(14%)、温泉(9.8%)、高原での避暑(8.2%)、アウトドア(8.2%)、テーマパーク(7.8%)の順になっています。このうち帰省客は最初から行き先が決まっています。伊豆には避暑向きの高原もほとんどありません。そうなると伊豆としては周遊観光、海水浴、温泉、アウトドアスポーツのお客様に焦点を合わせなければなりません。
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| ムーンライトテラス | 大沢温泉の桜 |
それでは家族旅行と伊豆のマッチングについて考えてみましょう。伊豆には奈良や京都のような史跡はありません。これといったテーマパークもありません。つまりお客を呼べる観光施設はもともと少ないのです。だからといって周遊観光に適さないかというとそんなことはありません。伊豆は「風景の画廊」です。すばらしい風景と自然はたくさんあります。海水浴やアウトドアの遊び場にも事欠きません。ドライブやハイキング、ダイビングなど行動型の旅行にはまさにピッタリなのです。
問題は自然や景観が失われつつあることです。経済性と利便性を追求するあまり伊豆本来の自然や景観が壊されています。このままでは絵のかかっていない画廊になってしまいます。人工の構造物で鑑賞に耐えるものはほとんどありませんが、自然を見飽きることはありません。かつて熱海は景観に恵まれた町でした。南国の明るい陽光がそそぎ、足元にはコバルトブルーの海が広がっていました。多くの著名人がこの地に居を構えたのは風光が秀逸だったからです。現在の熱海海岸はコンクリートのテラスになっています。一見するとおしゃれですが、コンクリート製のテラスを何度も訪れたいという人は少ないでしょう。
人工的な景色は東京のお台場あたりにたくさんあります。わざわざ伊豆まで来て人工の景色を見たい人がいるとも思えません。何か重大な思い違いをしているようです。利便性や経済性を優先すれば景観や自然が失われるのは当然です。上高地は旅行者の利便性と自然保護をハカリにかけ、マイカーを規制したのだと思います。自然保護を優先したのです。上高地の宿泊料金は決して安くはありません。にもかかわらず観光客が押し寄せるのは、そこに手つかずの自然があるからです。何を優先するかをよく考えてみるべきです。
宿泊料金の高さは自然淘汰されるでしょう。朝食のみで5〜6千円という宿泊施設もできています。朝夕食がついて1万円以下の施設もあるようです。コストダウンとサービスの両立は難しいことでしょうが、いずれにしろ予算に合わなければお客は泊まってくれません。これは個々の宿泊施設が解決すべき課題でしょう。むしろ問題なのは観光地の物価の高さです。いわゆる「観光地価格」というヤツです。特に東伊豆の物価高は異常です。食事、ガソリン、一般物価などおしなべて高いです。この点を改善しないとお客から敬遠されます。観光地価格はお客の反発を買うだけでしょう。
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| 戸田港の岸壁釣り | 城ガ崎のつり橋 |
このように考えていくと、伊豆の進むべき方向が見えてきます。まず第一は自然保護です。海や河川に流れ込む生活排水は十分に浄化すべきでしょう。もし何十年か後に「伊豆に行くと川で泳げるよ」ということになれば、それだけでもお客は集まってくるでしょう。次は景観の保護です。景観の妨げになる建造物は一切認めないくらいの強い意志が必要です。このようにして景観保護に努めている自治体は他にもあります。住民の理解が必要ですが、伊豆の将来を考えれば必要なことではないでしょうか。
行動型の観光客はリピーターが多いのが特徴です。例えばダイビングが好きな人は毎週でも行きたいのです。「単価を減らして回数を増やしたい」(14.5%)と考えるのはこういう人たちでしょう。彼らの目的は趣味であって旅行そのものではありません。お金は趣味の方に使いたいのです。車で寝て、ファミレスで食事すれば費用は安くあがります。トイレやシャワーの整った安全な駐車場を作れば喜ばれることでしょう。伊豆を訪れる4,428万人のうちの14.5%といえば640万人です。こういうお客さまを大切にしなければなりません。こういうお客様は伊豆の常連なのですから。
行動型観光客はお金を使わないわけではありません。一回当たりの費用が平均より安いだけです。しかし何度も来てくれるのですから伊豆にとっては大切なお客様です。おわかりでしょうか?。行動型観光客とは実はリゾート客のことなのです。ヨーロッパのような長期休暇のない日本ではこれまでリゾートの概念が希薄でした。しかし生活を楽しもうという考え方は着実に根付いています。ミニバンやキャンピングカーの流行がそれを物語っています。新しい形式の旅行が始まっているのです。
東京に近く、自然に恵まれている伊豆はリゾートに向いています。しかしリゾート客を招き入れるにはそれだけでは不足です。宿泊施設や遊び場も必要ですが、物価を下げることも重要です。優れたリゾートとは、自然に恵まれ、遊びができ、物価が安いところです。つまり、いいリゾートの条件は「住みいい町」なのです。夏休みになるとフランス人がギリシャやスペインに大移動するのは、そこが「暮らしやすい」からです。
リゾート化の方向をめざすには「住みいい町」を作らなければなりません。それには住民のコンセンサスが必要ですが、これが伊豆本来のあり方のような気がします。環境と風景を守り、物価を下げる。これができればお客様はやってくるでしょう。
ナニ、万一お客が来なくても「住みいい町」ができればモトは取れます。