事の始まり
遊ingのyosakoiページより転載
通勤客でごった返す横浜駅の地下道を右往左往しながら迷子になりかけて、やっとJR東海のホームにたどり着くと、ちょうど6時59分発の沼津行きが発車する直前だった。車両に乗り込むと窓際の空いていた席に座り一息つきながら外の様子を見渡す。
陽はまだ登っていないけれど幾らか明るくなった街並みは、ボクの知らないいつも通りの日常が始まっているらしかった。ボクの乗り込んだ下り車線とは対照的に、上り車線のホームには乗客がごった返している。どの人も無表情で生気が感じられないのは冬の寒さばかりではないような気がした。

電車は時刻が来て走り出す。車窓から見る景色は高層ビルばかりがいつまでも続いていた。幾らか走って駅で止まる度に幾人かの通勤客が降り、同じ数ほどの幾人かの通勤客が乗り込んでくる。

茅ヶ崎を過ぎた辺りでひときわ空が明るくなった。ビル群を抜けたせいかと思ったが、東の空に目に刺さるような強烈な陽差しが登り始めていた。線路が曲がる度に車両は右に左に折れて正面の車窓に見えていた太陽が隠れたり現れたりしながら次第に空は青さ増していく。朝陽が登るのをずいぶんと見た記憶がない事を思い出した。朝陽を見るというのはボクの日常にはない事だった。

車窓の景色は、小田原駅を過ぎたあたりで突然に変わる。生い茂る緑木の中に駅のホームがポツンとあり、その向こうには眼下にどこまでも続く海原がある。その景色を見て急に呼吸が楽になったような気がした。知らず知らずのうちに立ち並ぶビル群から圧迫感を受けていたようだ。
ボクは、ボクの住むべき場所に帰ってきた。

8時44分、沼津駅に着いた。駅から降りると正面の街路を歩き出した。まだ幾らか通勤の慌ただしさを残していたが、横浜の雑踏には比べるまでもなかった。
そのまま通り過ぎて狩野川の階段提まで来ると腰を下ろしてしばらく川の流れを見ていた。

昨日は横浜に住む友人を訪ねた。「よさこい」の事になると何から何まで意見が合わずケンカ腰になってしまい、いつまでも話がかみ合うことのない友人だった。昨日もけっきょく、同意できる意見は何ひとつ聞く事もできず、その結果として今こうしてただ悶々としながら川べりに座り込んでいる。
「狭いニッポン・・・」とか言いながら、住む場所が少し違うだけで人間性とか、人生観とか、生活感とか、いろんな事がけっこう違うような気がした。

 駿河屋市辺衛
surugaya@po2.across.or.jp 

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