
3日目・全国大会(その4)
爆音を響かせながら両筋を交互に次々と突き抜け、最後に残った地方車は「高知大丸踊り子隊」だった。
正調を基本とする「大丸」の踊りは、鳴子を綺麗に鳴らす。空に向かって胸を突き出し両手をかざしながら片足を繰り出す。腕が空で弧を描きながら真横にくるとピタリと止まって鳴子が鳴る。そして、前かがみになって腰を低く落とし、両手を揃えて前に突き出してピタリと止まると鳴子が鳴る。
踊り子達の笑顔とその踊りの華やかさが見ている者も楽しい気分にさせる。
スタートラインに立つボクは「大丸」の踊り子達の後ろ姿を見送っていた。
先を行った対面の「NTTドコモ」が過ぎ去りスポットライトの光が見えなくなると、突然、それまでの光景が一変した。
色とりどりに輝いていた追手筋が突然暗闇に変わった。その暗闇の中に「大丸」の地方車のスポットライトだけが光っていた。
その時の事を今思い起こしても「大丸」の地方車から流れる正調の「よさこい節」以外に何も音の記憶がない。町中に人が溢れ、通りの向こうは表彰式の準備に慌ただしかったハズで、音が町中に溢れているハズだった。それでも、ボクには「大丸」の地方車から流れるゆるやかな正調の「よさこい節」以外に何も音の記憶がない。突然のあまりの変わり様にその時の事を記憶できなかった。
終演は突然にやってきた。
一筋の光に「大丸」の踊り子達が浮かび上がる。
静まりかえった暗闇の中、桟敷席から一人、また一人と観客が演舞場に降りてくる。それらの人々は「大丸」の踊り子達が進む真っ直ぐな道筋を残して会場全体を埋め尽くした人垣となった。
追手筋には、今、「高知大丸踊り子隊」だけが踊っている。
一筋の光に映し出されるその踊りはあまりに静かで、ゆっくりとゆっくりと進んだ。前かがみに伏せたまま音もたてずにゆっくりと繰り出される腕の張りつめた緊張感に「祈り」にも似た崇高さを感じる。
腕が伸びきった一瞬、全員がピタリと静止する。
鳴子が鳴る。
踊り子全員の完全に揃った鳴子の音はあまりに美しい。
再びゆっくりとゆっくりと動きだす。
鳴子が鳴る。
鳴子が鳴る度に、ボクの心音が高鳴り共鳴する。
高知に来てからのこの3日間、ひたすら激しく街中の熱気にいつでも全身が包まれていた。その激しさが弾けた時に「よさこい祭り」は終わると思っていた。突然、目の前に現れたこの静寂は想像するはずもない以外な終演だった。
「高知大丸踊り子隊」は、静かにゆっくりと遠ざかって行く。
誰にも何も言われずとも「大丸」の踊りが伝えてきた。「よさこい」から激しさや楽しさばかりを受けてきたボクが、初めて悲しさとか切なさといった感情を受けた瞬間だった。
高知に入った初日、どこの誰とも分からぬボクを優しく迎えてくれた「升形商店街」の人たち。
一生懸命に踊り続け、最後のはりまや橋商店街では泣きながら踊っていた「FUJIYAMA組」のみんな。
どこまでも頑なに正調を守り通すボクの誇り、「粋・イキなかみせ鳴子隊」。
ウチワで煽りながら「暑いから水を飲みなよ!」と励ましてくれたおばあさん。
誰彼の区別なく大声で笑いあった。
「よさこい祭り」は、踊る祭りである前にそれぞれの想いを一つにする祭りだった。
「高知大丸踊り子隊」は、静かに静かに暗闇の中に消えていった。
