3日目・全国大会(その3)
追手筋の北側を”上町よさこい鳴子連”が行き、少し間を置いて南側を”帯屋町筋”が行く。
それから、すぐにまた北側を”さぬき踊らんな連”が続いていく。
地響きを立てる地方車と共に150人からの踊り子が両筋を交互にスタートしながら過ぎ去っていく。その様は、さながらドラッグレースでも見ているようで、両筋を行く地方車の爆音が辺り一面に響きわたり、すぐ横にいる人の話声も怒鳴り声でなければ聞こえない。

両筋のスタート地点に挟まれた植え込みに立つボクには、それぞれのチームが待機している様子を目の前に見ていた。どのチームの踊り子も暑さと疲労に耐えて立ちつくしたまま、先を行くチームの後ろ姿をジッと見ている。額を汗が流れながら落ちて行く。その様子に耐えきれなくなったボクは踊り場に降り行き、持っていたウチワで踊り子達を扇いで歩き廻った。
「FUJIYAMA組」の踊り子達をウチワで煽いでくれた観客の気持ちが、ここで初めて分かったような気がした。
それでも、地方車から爆音が響き出すとどの踊り子も申し合わせたように、突然元気になって飛び出して行く。

夕暮れ時になって辺りが暗くなると地方車のスポットライトが灯された。
この時間になると色とりどりの衣装が映えて街中がキラキラと輝いて見える。

南側筋に”鳥取県よさこい踊り子隊”が入ってくる。
踊り子達それぞれがスタート地点に立つと、やはり、暑さと疲労に耐えてジッと立ちつくしている。
初日の升形競演場で、初めてこのチームを見た時には驚いた。地方車から振り付けから鳴子の鳴らし方まで、すべてが本当に綺麗だった。

さすがに全国大会というだけあって、「振り付け」も地方によってはエアロビクスの動きを基調としていたり、ジャズダンスの動きを基調としていたりと本当に様々だった。日本の伝統的な和の動きを基調とする正調のチームもあったが、県外のチームには直線と曲線を織り交ぜたよさこい独特の美しさと迫力を同時に兼ね備える動きが出来ていなかった。幾つかのチームに話を聞く機会があったが、自分達の地域にあった独自のよさこいを模索しているところもあれば、ボク達のようにあの独特の動きを目指しながら未だ出来ていないというチームもあった。
高知の地元チームは、正調でなくともしっかりとその独特の動きが織り交ぜられていたのには感心してしまった。

「鳥取県よさこい踊り子隊」は、けっして正調ではないけれども、県外から参加チームでは唯一、鳴子を鳴らす為のよさこい独特の動きが出来ていたチームだった。
踊り子達に本当に深く感動した想いを伝えたい衝動にかられたボクは、植え込みから降りて踊り子達に近づいて行った。不審な顔でボクを見つめる踊り子達に構わずそばまで行くと、前を行くチームの地方車から響く爆音を遮るように耳元に向かって一言、「最高だった!」と叫んだ。他の踊り子達にも同じようにして叫んで歩き廻った。
その一言を伝えると疲れきっていた踊り子達の表情が一瞬にして生気をとり戻し跳ね上がるように喜んでくれた。

中央の植え込みに戻ると地方車が爆音と共に動き出した。踊り子達は、笑顔の交じった視線をボクに向けてから勢いよく飛び出していった。その後ろ姿が一瞬、本当に空に舞い上って行くように見えた。心に残る瞬間だった。

ボクの地元の「粋・イキなかみせ鳴子隊」が演舞場に入ってきた。
去年の11月、「よさこい沼津まつり」で初めて「よさこい」に触れた時、正調などというものはまったく知らず、もともとジャズダンスやストリートダンスが好きだったボクは、おおやけの場でこのチームの踊りを「変わった盆踊り!」と評した。それからしばらくの間、「粋・イキなかみせ鳴子隊」の踊り子だったタケちゃんに事あるごとにブツブツと説教されていた。

スタート地点に立つと、やはり額からも全身からも汗を流していた。その姿は静岡で見ていた姿とはまったく違っていた。代表の田中さんも、山崎先生も、どの踊り子も、ジッとまっすぐに先を見つめている。その時、誰もが輝いていた。
日頃、練習の激しさや規律の厳しさに「たかが祭りで踊るぐらいでそんなに真剣にならなくとも・・・」と疑問に感じたこともあったが、この姿を見ればボクにでも理解できる事だった。やはり高知は遠い。100人からの踊り子を従えて毎年「よさこい祭り」に参加しようと思うならばいい加減な気持ちで出来ることではなかった。

聞き慣れた「粋・イキなかみせ鳴子隊」の曲が流れ出すと踊り子達は軽快に進み出した。
正調を基本とするその踊りは、地元に居ては気が付かないかも知れないが、遠く離れた街で見ると良いものだ。踊りの節々に静岡を、そして沼津を感じる。
誰かが、「江戸時代からそのまま抜け出てきたような踊り」と言っていた。
毎年、どのチームもまったく違った新しい踊りを見せようとする中で、頑なに今ある踊りを温めて少しづつ変化をつけながら、正調であり続けるチームが沼津にある事をボクたちはもっと誇りにしても良いと思う。


 駿河屋市辺衛
surugaya@po2.across.or.jp 

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