今日の短歌NO.1
 わたしの歌歴(後藤人徳)
 昭和59年「賀茂短歌会」入会。現在編集発行人。
  歌集:「母胎」、「祈り」「わが家の天使」

以下に紹介します作品は、作ったばかりのものをそのまま書いています。推敲の手があまり入っていません。未完成の部分が多々あると思いますが、参考にしてもらえれば幸いです。...作者より
マイナスはプラスへの道/艱難(かんなん)は歓喜(かんき)への道/今日からの道

短歌は、三十一音からなる小さな世界です。その中に自分の思いを込めます。ですから、時間はなかなか織り込めない。今の一瞬、一瞬を歌うしかないのではないでしょうか。そう思います。また、そのように作っています。


1月31日(土)

平成18年1月1日(月)、1月2日(火)

旧作の備忘記録

一枚は一枚なれど日めくりの最後の一枚燦然とあり

とうとうに大晦日とはなりにけり隣家(となりや)の犬いたく吠えおり

小春日のごとき日の差す大晦日カラスが一羽舗道を歩ゆむ

正月の朝は曇れど遠山の上に黄金となれる雲あり

正月の日を覆いたる黒雲も覆いきれずに光差しくる

正月のこれが光ぞ黒雲を割りてあまねく里に差しくる

正月を祝うごとくに聞こえ来る鋭く鳴けるヒヨドリの声

新しき心となりて曇りたる空を見上げよ雲も親しき

1月30日(金)

旧作の備忘記録

23年1月6日(木)

正月の五日の朝は寒々しさみしきまでに晴れわたりたり

霜を置きしずもる田にはひこばえが小さき穂をつけ風にふるえる

温暖な伊豆のわが家も室温が六度となりし今日の朝方

苦しさに負けずに歌い飛ばすこと歌人魂持ちて生きたし

歌出来ぬときは静かに息を吸い静かに吐いて天井を見る

 1月29日()

旧作の備忘記録

23年1月5日(水)

正月の四日の朝は雨上がり木々のしずくが玉と輝く

正月も無事終ると山々が安堵の息のごとき霧吐く

葉を落とし春を待つ身のいちょうには安息に似し日々が続かん

冷え冷えと霜置く道の彼方には白く雪置く山が聳える

枯れること出来ぬ青草白々と葉の上すっかり霜におおわる

1月28日(水)

旧作の備忘記録

23年1月3、4日

正月の二日の朝はしんしんと霜置きて里しずもりている

湯気を上げ正月二日の路線バス乗る人なくも温かく行く

「喜びも悲しみも幾歳月」高峰秀子の訃報に接す

正月の三日の朝は曇りたり鱗の雲が赤く染まれり

正月の三日も暮れて西空がいま黄金(おうごん)に輝いている

1月27日(火)

         23年1月1,2日より

五百円硬貨に釣銭の出でしこと子は自販機の前で喜ぶし

宝くじ当たり驚喜の人も居ん追い詰められたる大晦日の日に

元旦の空はすっかり晴れ渡り今年もやるぞの心湧きくる

おだやかな元旦の朝着ぶくれてゆったり前を歩くわが影

穏やかに今日一日が過ぎたると茜に染めて日が沈みゆく

1月26日(月)

旧作の備忘記録

夜警(2

身を虫に刺され作歌をせし茂吉夜警詰所に赤光を読む

一筋の希望の光伸びゆけり懐中電灯空に向くとき

灯すなく今日を終えたり客室の闇に懐中電灯向ける

白みゆく外の空気を思い切り吸いて夜警の巡回終える

夜は夜警朝は清掃くたくたとなり眠るなり昼の三時を

月掛けに一万円を二年間かけたり利息百円を得る

何故もっと深く知ろうとしないのか啄木が言う子規が頷く

1月25日(日)

旧作の備忘記録

夜警(1)

月読みのさやけきなかを巡回す池より鯉の飛び跳ねる音

犬のごと嗅ぎて歩めと教えらる夜警初日の心得として

癖を持つ鍵の施錠に手間取ると夜警初日の日誌に記す

巡回に十階巡る午前二時一瞬闇を何か動けり

さあ今日の闇に向わん夜警われ懐中電灯ひとつが頼り

1月24日()

旧作の備忘記録

出稼ぎ(3)

父親も呼べとう医師の言葉告ぐ妻は電話で子の危篤告ぐ

死ぬはずは絶対なしと暗き道危篤の吾が子思いて駆ける

子の危篤思い駆ければ明あかと吾が家は点る夜更けの闇に

なきがらの前に座りて名を呼びぬ大きく呼びぬわれは父なれば

大声に汝の名呼びぬなきがらにすがりて呼びぬわれは父なれば

汝のため何をなせしかわが子亡く働きたりと言うもむなしき

肉体は煙りとなりて消えゆけりわが子の顔に似たる浮き雲

子を亡くし悩める妻よ長ながと手紙書きおり出稼ぎの夜

1月23日(金)

旧作の備忘記録

出稼ぎ(2)

父の日と子の描きたる絵を壁に貼りて見ている出稼ぎの夜 

三畳の部屋に起き伏す出稼ぎに言(こと)なきこけしをこよなく愛す

刃の裏を研ぐなと言いしふる里の父よ今宵も酒飲みをるや 

吊革の長く垂れつつ揺れている哀しきものを人は作れる

出稼ぎの夜の電話に子の危篤妻告ぐるなり父なる吾に

1月22日(木)

          旧作の備忘記録

出稼ぎ(1)

出稼ぎの夜久びさに電話する子らの争う声が聞こえる

用のなき電話すまじと誓いしに受話器取りたり出稼ぎの夜

出稼ぎを帰り抱けば幼子は痛いと言いぬ言いて泣き出(い)ず

出稼ぎの社員食堂自づからいつも座りぬ隅の辺りに

出稼ぎの夜帰りたりアパートの独りの部屋にひとつ窓あり

1月21日(水)

旧作の備忘記録

わが家の天使 (6)

限りなくわれを愛する神がいて障害の子をわれに授けし

子を思う親心とは何なるか子の為になら死なん心か

掛け替えのなき一瞬と思うとき自づと息は深くなりたり

満足をせんと俄かに思いたち大きくひとつ息を吸いたり

1月20日(火)

旧作の備忘記録

わが家の天使 (5)

歯を磨かず顔も洗わぬ三郎は清潔でない誠実なんだ

自閉児のわが子を汚れしもののごと扱いしなり有体に言えば

不潔など存在しない心障の三郎の世界輝きおらん

われのみに頼るかたちに縋りつく障害の吾子生涯の吾子

障害のわが子が施設に戻りし日開放されたる哀しみがある

1月19日()

旧作の備忘記録

わが家の天使 (4)

母親の笑顔が好きで自閉吾子妻が笑えば遅れて笑う

わが()には天使がおれば台風も避けてくれたりそう妻に言う

自販機でジュースを買うを覚えたる子は眠りおり硬貨にぎりて

子の着るは妻のセーター小さくも喜んでいる匂いなど嗅ぎ

三郎をサブさんと呼びサブと呼びサブちゃんと呼びサブコロとよぶ

1月18日(日)

旧作の備忘記録

わが家の天使 (3)

もの言えぬわが子の発する叫び声こころのこもることばと届く

施設より子の戻り来て週末を安眠できると妻は喜ぶ

自閉児のわが子とドライブするときにドラマのような沈黙がある

茜差す雲を頭上にミレー作「夕べの祈り」のごとき子とわれ

空染める夕日に向かい海中を分け行くように走る子とわれ

1月17日(土)

          旧作の備忘記録

わが家の天使 (2)

わが子を託し養護施設を出ずる時明るき職員の声の聞こえり

出勤は養護施設に子を託し病院に透析の妻送りたる後

今週は迎えに行けぬと施設の子に伝えたけれどその手段なし

今に来る迎えに来ると施設にて子は待ちおらんわれは行けぬに

わが知らぬ世界のなかで自閉症病む子は神と遊びいるらし

1月16日(金)

旧作の備忘記録

わが家の天使 (1)

自閉症患いしわが子苦しいか頭を振って壁打ち叩く

血の滲む拳差し出す自閉の子父見てくれと言わんばかりに

いかにせん夜中に騒ぐ自閉児の子を寝不足で施設に戻す

施設へと自閉児わが子を送る道「お花きれい」と言えばうなずく

薬物を投与されずに大人しく施設におれとわが子を祈る

1月15日(木)

旧作の備忘記録

夜警(3)

灯すなく今日を終えたる客室の闇に懐中電灯向ける

ひと本の光の柱立ちにけり懐中電灯空に向くとき

犬のごと嗅ぎて歩めと教えらる夜間警備の心得として

深ぶかと夜警のわれに会釈して若きコンパニオン暗闇に行く

事なきを当然などと思ふまじ夜警となりて思い至れり

新しき世紀幸あれ夜明け前の闇照らしゆく夜警のわれは

 1月14日()

旧作の備忘記録

夜警(2)

次つぎに非常扉を巡回す夜警のわれのなす任務にて

癖を持つ鍵の施錠もいつしかに慣れたり夜警の職を得しわれ

白みゆく外の空気を吸いにけり今日の最後の巡回終えて

一日のはての幸い無事夜警終えて帰宅をせむひとときは

夜警とう小さき営為も意義あらむ平和を守ると人に言わねど

暗闇に向いて行かな夜警われ懐中電灯一つ携え

1月13日(火)

旧作の備忘記録

夜警(1)    

通勤の群歩みいていつ知らに職なき吾のひとり遅るる

静脈の太く浮きたる妻の手を見ていたりけり職の無き吾

いっぱいに鋏をひらき沢蟹の道を横切る身構えあわれ

山の影山に重なり暮れゆけりすでに日の()りしばし間のあり

身を虫に刺され作歌をせしと言う茂吉を思う夜警詰所に

1月12日(月)

          旧作の備忘記録

会社清算(5)

幾千の花に(せわ)しき蜜蜂を(とも)し見ている職のなきわれ

一枚の枯れ葉は今し散りにけり葉の元いまだ青味帯びつつ

ひたぶるに打ちては散れる波を見に来しわれなるか断崖に立ち

潮風をまともに受ける断崖の磯菊の花石蕗の花

潮風に揺れるをむしろ喜ぶや陽に水仙の歌声がする

黒雲の覆いたる空うっすらと朝の光が割りて漏れくる

1月11日(日)

旧作の備忘記録

会社清算(4)

ベンチにて一人憩えるわが靴に止まりし蝶の動くともなし

職あぶれベンチに座るわがかたえたどきなく子猫一匹寄り来

近寄れる子猫にサンドイッチ投ぐ昼のベンチに独り座りて

海見える小公園のベンチにて昼を眠れる職のなきわれ
 皎皎(こうこう)と月の光の降りそそぐふる里の川夢に見ている

1月10日(土)

旧作の備忘記録

会社清算(3)

仰向けに炬燵に臥してガラス戸を移りゆく雲ただ眺めいつ  

職無くてテレビ見おれば舞台より歌手深ぶかとお辞儀をしたり

黄の帽子かぶり通学せる子等のなかに逝きたる長男はいぬ

灯を消して闇に安堵の息を吸うかくあらまほし死への旅路も

職探しさ迷うわれか炎天に蚯蚓一匹干乾びている

舗装路に潰されている蝸牛こころやさしきもののごとくに

1月9日()

旧作の備忘記録

会社清算(2)
くり返しのきさざる一世(ひとよ)すでにしてもみずる齢となりたるわれか

ひたぶるに二十五年を勤めたりいま清算をわれも迎える

舗装路に引かれし犬は横たわる四本の足を()しく揃へて

水涸るる川にお游げる(はや)の子の危うきさまを橋より見つむ

職の無き昼は炬燵に大の字に臥しいて天井をしばし見詰むる

1月8日(木)

旧作の備忘記録

会社清算(1) 

伊勢海老が社員食堂に出(い)できたりホテルを閉める日の近づきて

あらかたの通路は封鎖されにけり清算をするホテルを歩く

うす暗く静まるホテル清算の帳簿整理を独りつづける

清算の残務整理は空調のすでに切られし地下の事務室

信号の点滅をするこの道も清算ののちは通ることなし

1月7日(水)

          旧作の備忘記録

お吉 (2)

渦なかの一葉のごと揉まれしや酒に溺れて果てしお吉は

お吉を呑み命奪いし深淵も護岸工事によりて痩せおり

芸妓らのお吉供養の行列を痩せし川面の映し流るる

髪結業、芸妓、女将と時うつり物乞いをもて終りしお吉

身投げせしお吉ヶ淵を旧名に門栗ヶ淵と呼ぶ人はなし

1月6日(火)

旧作の備忘記録

お吉 (1)

自らを卑しめはてて身投げせしその名残れりお吉ヶ淵と

(おきて)破り病めるハリスに与えしと牛乳発祥碑文は(しる)

玉泉寺境内にして日本初屠殺場跡と記す立札

この道を領事ハリスも歩みしか廃庭に薔薇赤く咲きいる

召使乙女は五人俗名のお吉の名前が記されており

法外なる召使解除の給金のお吉署名の受取り書残る

1月5日(月)

旧作の備忘記録

病む母は見舞いのわれの姿見て管のままにて起きあがりたり

弟に家業譲りて離れ住む母のことなど今宵思いぬ

母さんの歌いてくれし童謡の月の砂漠も破壊されたり

童謡の月の砂漠のラクダたち地球を(のが)れ月を歩むか

黒船に似せて造りし遊覧船波荒きなか湾巡りゆく

潮風の強く吹きしく渚道椰子ゆらめきて葉音やかまし

たらちねの母と眠れる寒き宵六十年はまぼろしにして

久々にふたりして眠る秋の(よる)ははそはの母の寝息聞きおり

1月4日()

旧作の備忘記録

養護施設の運動会   

子の通う養護施設の運動会秋晴れの空に少し雲浮く

トップ切り走りし男の子ゴールテープの前にて止り後ずさりする

競争の意志を持たざる自閉児がゴールの前で皆を待ってる

百メートル競走だけど歩いてる歩くことさえ出来なかった子が

声援のなかゆっくりと歩む子よ順位にあらず無事にてあれよ

1月3日(土)

旧作の備忘記録

東京の子(2)

心障の子と透析の妻抱え離れ住む子のことを忘れる

長雨にジャガイモの葉は枯れにけり明日は掘らんと妻に言いたり

らっきょうと生みたて卵ささやかな土産となして子に会わんとす

生きがたき悩み持つ子を東京に置き去りにする新幹線は

レストランに家族そろいて食事せし楽しかりにし子等小さき頃

1月2日(金)

          旧作の備忘記録

東京の子(1)  

さわやかな皐月の風がさざ波を起し早苗田揺りて吹き過ぐ

夕暮れの田の落ち水の音すなり蛙の声と和して静けし

田植え終え夜の更けゆけば延々と蛙の声の深まりてゆく

田植え終え蛙の声の満ちる夜半東京の子にメール打ち継ぐ

離れ住む東京の子に週一度メール送るも返事はあらず

1月1日(木)

旧作の備忘記録

至福の時間(3)

帰宅せしわれの着替えも待ちきれず飛び出しにけり心閉ざす子 

石投げの好きな子なればおそらくと姿探して水辺を走る

自閉症患うわが子穏やかな今日は凪ぎたる海に似ている

自閉症患う息子が穏やかにビデオ見ている至福の時間

障害の子供と暮す一日が無事に過ぎればそれだけで足る

なにもかも捨ててこの子と生きゆくか自閉児わが子の寝顔見ている